大阪地方裁判所 平成元年(わ)849号 判決 1991年3月07日
本店所在地
大阪府和泉市弥生町一丁目九番四号 新丸三興業株式会社
(代表者代表取締役 竹田晴雄こと尹泳春)
国籍
韓国(全羅南道宝城郡福内面詩川里一八五)
住居
大阪府和泉市弥生町一丁目九番四号
会社役員
竹田晴雄こと尹泳春
一九二四年二月一七日生
右新丸三興業株式会社に対する法人税法違反、右尹泳春に対する法人税法違反、所得税法違反、外国為替及び外国貿易管理法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官梶山雅信出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人新丸三興業株式会社を罰金八〇〇〇万円に、被告人尹泳春を懲役三年及び罰金二〇〇〇万円に処する。
被告人尹泳春においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人尹泳春に対し、この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人新丸三興業株式会社(以下、「被告会社」という。)は、大阪府和泉市弥生町一丁目九番四号に本店を置き、パチンコ店「パルコ」及び「ABC」を営む資本金三〇〇〇万円の会社であり、被告人尹泳春(以下、「被告人」という。)は、右同所に居住し、被告会社の代表取締役としての業務全般を統括する一方、パチンコ店「新丸三」を個人で経営しているものであるが、被告人は、
第一 被告会社の業務に関し、その法人税を免れようと企て
一 昭和五八年九月一日から昭和五九年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が三億三七八九万三四二円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、売上の一部を除外し、よって得た資金を仮名の定期預金等として留保するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、同年一〇月三一日、大阪府泉大津市二田町一丁目一五番二七号所在の所轄泉大津税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二九八六万九五三一円で、これに対する法人税額が一一八一万三六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億四五一八万六七〇〇円と右申告税額との差額一億三三三七万三一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた
二 昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が一億八六九三万二三四〇円(別紙(二)修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が五九六万八〇〇〇円あったのにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、同年一〇月三一日、前記泉大津税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三一一万六四九五円、課税土地譲渡利益金額が五九六万八〇〇〇円で、これに対する法人税額が二〇九万三三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八一〇八万四九〇〇円と右申告税額との差額七八九九万一六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた
三 昭和六〇年九月一日から昭和六一年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が二億九〇四万三九五七円(別紙(三)修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が五九五二万六〇〇〇円あったのにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、同年九月三〇日、前記泉大津税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一四四八万五〇二六円、課税土地譲渡利益金額が五九五二万六〇〇〇円で、これに対する法人税額が一六〇六万四九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億三〇万八五〇〇円と右申告税額との差額八四二四万三六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた
第二自己の所得税を免れようと企て
一 昭和五九年分の実際の総所得金額が一億五五二〇万四五七三円(別紙(五)修正損益計算書参照)あったのににかかわらず、売上の一部を除外し、よって得た資金を仮名の定期預金等として留保するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六〇年三月一五日、前記泉大津税務署において、同税務署長に対し、昭和五九年分の所得金額が六三六一万二一六一円で、これに対する所得税額が三〇四四万八九〇〇円(ただし、扶養控除の適用誤りにより三〇二三万四四〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額九三六七万五〇〇円と右申告税額との差額六三二二万一六〇〇円(別紙(八)税額計算書参照)を免れた
二 昭和六〇年分の実際の総所得金額が三六〇三万九五九六円(別紙(六)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の方法により所得の一部に秘匿した上、昭和六一年三月一五日、前記泉大津税務署において、同税務署長に対し、昭和六〇年分の所得金額が一九六七万四六三六円で、これに対する所得税額が四五七万五五〇〇円(ただし、扶養控除の適用誤りにより四四一万五〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一三七九万八四〇〇円と右申告税額との差額九二二万二九〇〇円(別紙(八)税額計算書参照)を免れた
三 昭和六一年分の実際の総所得金額が五一六四万六八八八円(別紙(七)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六二年三月一六日、前記泉大津税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の所得金額が二四〇〇万六六一〇円で、これに対する所得税額が五五九万八九〇〇円(ただし、扶養控除の適用誤りにより五四一万七四〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二一七三万一一〇〇円と右申告税額との差額一六一三万二二〇〇円(別紙(八)税額計算書参照)を免れた
第三 法定の除外事由がないのに、大蔵大臣の許可を受けないで
一 昭和六二年一二月一一日、大阪府豊中市蛍池西町三丁目五五五番地大阪国際空港から旅客機に搭乗して韓国に向けて出国するに際し、本邦通貨四〇〇〇万円を携帯して出国し
二 昭和六三年四月一二日、右大阪国際空港から旅客機に搭乗して韓国に向けて出国するに際し、本邦通貨一億五〇〇〇万円及び本邦通貨をもって表示される別紙(九)小切手一覧表記載の株式会社住友銀行和泉支店長柴崎政光振出名義の自己宛小切手四〇通(額面合計二億円)を携帯して出国し
もって、それぞれ支払手段の輸出をした
ものである。
(証拠の標目)
判示全事実について
一 被告人の当公判廷における供述
判示第一及び第二の各事実について
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官に対する供述調書二通(証拠等関係カード((検察官請求分))に記載されている番号76、77、以下、括弧内の算用数字は同カード中の番号を示す。)
一 被告人に対する収税官吏の質問てん末書七通(63から67、71、74)
一 磯川幸子の検察官に対する供述調書
一 磯川清子(七通、42から48)、磯川幸子(49)、林千尋(54)、金谷光弘及び磯川政子に対する収税官吏の各質問てん末書
一 磯川清子作成の確認書(19)
一 検察事務官作成の捜査報告書
判示第一の各事実について
一 被告人に対する収税官吏の質問てん末書(70)
一 磯川幸子(三通、50から52)及び平山現作こと申現作に対する収税官吏の各質問てん末書
一 磯川幸子作成の確認書(22)
一 収税官吏作成の査察官調査書九通(33から41)
一 泉大津税務署長の作成の証明書(31)
一 登記簿謄本
判示第一の一の事実について
一 磯川幸子作成の確認書二通(23、24)
一 泉大津税務署長作成の証明書(28)
判示第一の二の事実について
一 泉大津税務署長作成の証明書(29)
判示第一の三の事実について
一 泉大津税務署長作成の証明書(30)
判示第二の各事実について
一 被告人に対する収税官吏の質問てん末書五通(68、69、72、73、75)
一 林千尋(55)及び張間勝実に対する収税官吏の各質問てん末書
一 磯川清子作成の確認書二通(18、20)
一 収税官吏作成の査察官調査書九通(9から17)
一 泉大津税務署長作成の証明書(7)
判示第二の一の事実について
一 磯川清子作成の確認書(21)
一 泉大津税務署長作成の証明書(4)
判示第二の二の事実について
一 泉大津税務署長作成の証明書(5)
判示第二の三の事実について
一 検察官作成の捜査報告書
一 泉大津税務署長作成の証明書(6)
判示第三の各事実について
一 東京地方裁判所(平成元年特(わ)第一八八六号)における第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官に対する供述調書二通(乙3、乙4)
一 法務省入国管理局登録課作成の外国人出入国記録調査書
一 司法警察員作成の捜査関係事項照会書の謄本二通(甲14、甲15)
一 大蔵省国際金融局金融業務課長作成の捜査関係事項照会回答書(甲13)
判示第三の一の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書四通(乙2、乙5から乙7)
一 磯川清子(甲3)及び金光浩行の検察官に対する各供述調書
一 司法警察員作成の捜査関係事項照会書の謄本(甲12)
一 大蔵省国際金融局業務課長作成の捜査関係事項照会回答書(甲11)
判示第三の二の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書四通(乙8から乙11)
一 磯川清子(甲8)、柳尚満及び松岡春好の検察官に対する各供述調書
一 司法警察員作成の捜査関係事項照会書の謄本(甲6)
一 大蔵省国際金融局金融業務課長作成の捜査関係事項照会回答書(甲5)
(法令の適用)
被告人の判示第一の各所為はいずれも法人税法一五九条一項に、判示第二の各所為はいずれも所得税法二三八条一項に、判示第三の各所為はいずれも外国為替及び外国貿易管理法七〇条九号、一八条一項、外国為替管理令八条一項、昭和五五年一一月二八日大蔵省告示第一一七号四号(判示第三の二の所為につき更に同告示五号)に該当するので、判示第一及び判示第三の各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の各罪についていずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第二の各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役三年及び罰金二〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
さらに、被告人の判示第一の各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示第一の各罪につき同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金八〇〇〇万円に処することとする
(量刑の事情)
判示第一及び第二の各犯行は、パチンコを業とする被告会社の代表者であり、個人でもパチンコ店を経営する被告人が、継続的に多額の売上除外を行った上、法人税合計二億九六〇〇万円余り及び所得税合計八八〇〇万円余りを脱税した事案である。ほ脱額の合計は三億八五〇〇万円余りという高額に達する上、ほ脱率も、法人税については平均九〇パーセント、所得税についても平均六八パーセントという高率に達しており、いずれも納税義務に著しく違反する大胆な脱税行為というほかない。また、判示第三の各犯行は、かねて故国の政情に関心を抱いていた被告人が、平和民主党の金大中総裁から選挙資金援助を求められ、さらに、献金の見返りに国会議員選挙全国区第三位の候補者とすることを約束されたとして、二回にわたり、合計三億九〇〇〇万円もの多額の支払手段を無許可で輸出したものであって、たやすく軽視することのできない犯行である。そして、右に見たほ脱の態様、ほ脱額等からすれば、被告人らの刑責は相当に重く、特に被告人に対しては懲役刑の実刑をもって臨むことも十分に考えられるところである。
しかし、他方、右ほ脱の手口そのものは、主として単純な売上除外を内容とするものであって、特に巧妙、悪質とはいいがたい面もあること、被告人及び被告会社において、本件ほ脱額に関し、既に本税、附帯税及び地方税修正分の全額を納付済みであること、被告人は、昭和二六年に来日して以来、何度か浮沈を繰り返し、高利の借金に追われながらも、故国の発展に寄与したいとの思いから、同郷者への支援や、種々の社会的活動への参加、協力を措しまず、懸命に働いて六七歳の今日に至ったものであって、過去二〇年近くは前科もない上、本件各犯行の摘発後は、その非を認めて事実関係を素直に供述するとともに、種々の役職を辞任して謹慎し、反省の情が十分に認められること、今後納税業務に違反することのないよう経理体制を一新したことなど、被告人らのために斟酌すべき事情も多々認められるので、これら有利不利一切の事情を総合考慮すれば、被告人らを主文の刑に処した上、懲役刑については、その執行を猶予するのが相当と考える。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 仙波厚 裁判官 的場純男 裁判官 三好幹夫)
別紙(一) 修正損益計算書
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
<省略>
別紙(三) 修正損益計算書
<省略>
別紙(四) 税額計算書
<省略>
別紙(五) 修正損益計算書
<省略>
別紙(六) 修正損益計算書
<省略>
別紙(七) 修正損益計算書
<省略>
別紙(八) 税額計算書
<省略>
別紙(九) 小切手一覧表
<省略>